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風呂デューサーコラム
2016/08/11

【小説】真実湯のものがたり ~第18湯 真実湯 冷え冷え大作戦~

jkamui173
フリーバス ブログ

旅館、真実湯(まことゆ)の湯守(ゆもり)をしとります、ゲンといいます。

よく温泉に入ると肌にいいとか、病気が治った、なんて話を聞きますがね、
温泉の本質はそういうことじゃあないんですな。

私は長年、お湯と向かい合って、はいられたお客さんと話し合って、
いろんなお風呂の側面っていうものを見てきたんですよ。

それでは、真実のものがたりをお話ししましょう。

 

【小説】真実湯のものがたり ~第18湯 真実湯 冷え冷え大作戦~


今年の夏、まだ始まったばかりではありますが、いろいろと初めてがありました。

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というのも…暑い!とにかく今年は暑いんです。
真実湯は山のなかの温泉地。
夏は避暑地としてお客さんがいらっしゃいます。
夏場でも30度を超えることなんてほとんどなく、
日陰に入れば汗をかくことはもちろん、かいた汗もすーっと引いていきます。
夏は最高のシーズンなんです。
そんな環境ですがから、暖房はあっても、冷房なんてものは扇風機くらいしかありません。

今年は日々30度を超え、風がない。
長期の宿泊を早めに切り上げるお客さんも出てくる始末です。
異常事態ですよ。

避暑地で避暑ができないとなると、もうお客さん自身で涼を探し、感じてもらうほかない、
そんな環境を何とか変えようと奮闘した英雄のお話です。

 

 

世間は夏休み、本来であれば家族連れで賑わう真実湯ですが、
異常な暑さで滞在しているお客さんも扇風機から離れられず、
ずっしりとした空気感の、静かな時が流れています。

お客さんはまだいいです。私達地元の人間は、こんな暑さに免疫がありません。
全員口角が下がり、斜め下ばかり見ていますね。
一番暑さに免疫があるのは日々風呂掃除をする私なわけですが、
熱中症になり2日間休みをいただいてしまいました。
湯守を名乗るものとして恥でしかありません。

 

熱さで予約の取り消しが発生する中、本日お泊まりのお客さんがいらっしゃいました。
男の子のお子さん2人とそのご両親です。

子供が来ると旅館が賑わうものなんですが、それでも変わらない雰囲気。
いやはやどうしたものか。

そのお客さん達は到着と同時に近くの川に出かけていきました。

 

子供たちは川遊びを楽しんだようで、キャッキャと騒ぎながら帰ってきました。
片手には近所の商店で買ったサイダー。夏らしい風景です。

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その横でご両親はうつろな目をしています。
熱中症ですね、なった私が言うんです、間違いありません。

 

「お客さん、大丈夫ですか?お部屋に冷たいお水をお持ちしますから、少し休んでください」

「ああ…そうですね、すみません、布団も敷いてもらえますか?」

「はい、すぐにご用意します」

 

準備をしてお部屋にお連れしたところ、子供達が心配そうに私に聞いてきました。

 

「ねぇねぇ、お父さんとお母さんは元気になるのかな」

 

大丈夫だよ、すぐ良くなるよ、普段ならためらいもなくこういうのですが、
あまりに熱いうえに冷房設備が整っていないので、子供たちの気持ちも考えず

 「うーん、今日は身体を冷やしてしっかり休んだほうがいいね。
ちょっと外にいた時間が長かったんだよ」

「…えっ…治らないの?」
「僕達が外で遊んでたから病気になっちゃったの?」

 

余計な心配をさせてしまったようです。

 

「いやいや、君達は悪くないんだよ。元気になるまで、旅館のなかで静かに遊んでね」

 

しゅんとうつむいて部屋にはいって行った子供たち。
カブトムシを捕まえたり、アイスクリームを食べたり、
楽しみにしていたことがたくさんあったことでしょう。

やはり冷房設備もきちんと備えておかなくては。
楽しみに来てくださったお客さんを、うつむいて家に帰すわけにはいかない。

 

ロビーでそんなことを考えていると、
玄関のほうからシュッシュ!シュッシュ!という音が聞こえてきました。

そこにはさっきの子供達が霧吹きを持って遊んでいました。
いや、その目は遊んでいる以上に真剣な目だったように思います。

私と目が合うと子供たちは駆け寄ってきて

 

「おじさん、これをかけると服は濡れないけど涼しいよ。みんな元気になるかな?」

 

ハッとさせられました。
みんな………ロビーに降りてくるまで部屋の扉を全開にして
布団に寝転んでいるほかのお客さんの姿を見たのでしょう。

そして従業員もみんな元気がない。
みんなお父さんとお母さんのように、具合が悪いんだ、何とかしてあげたい。
そんな思いを持って解決策を探したのでしょう。

 

「そうだね、みんな元気になるよ。みんなを元気にしに行こう」

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こうして私達は真実湯冷え冷え大作戦を決行したのです。

 

霧吹きを3つ用意して、部屋を全開にしているお客さんの部屋にお邪魔して
霧吹きをかけて、水を取り換えて回りました。

かわいらしいプレゼントにお客さんからも笑顔がこぼれ、
体感温度以上に心が爽やかになったようでした。

最後は旅館の事務所に入り、他の従業員に霧吹きをかけていつのまにか夕食の時間です。

 

「今日はご苦労さんだったね。お父さんとお母さんにご飯食べられるか聞いてきてごらん」

 

すたすたと部屋に戻ると、お父さんとお母さんにしがみつき、階段を下りてきました。

 

「おじさん!ご飯食べるって!元気になったよ!」

「番頭さん、子供達を見ていてくださったようで、ありがとうございました」

 

すっかり良くなったようで、血色もよく、足取りも軽そうでした。

 

「いえ、子供達は宿のみんなを元気にするために頑張ったんですよ。ほら、見てください」

 

先に夕食の席に着いた子供達のもとへ、ジュースや自分のおかずを差し入れにお客さんが集まっていました。

「旅館中のお客さんに涼をプレゼントしたんです。
私は冷房がないことを嘆いていただけですが、2人は自分でみんなを元気にしようとしていました。
立派ですよ」

「そうだったんですか…」

 

にっこりと笑って席に着いたご両親に、今日会ったことを話す子供達。
カブトムシもアイスクリームもなかったけれど、2人にとって、旅館中の全員にとって、
ステキな時間だったに違いありません。

 

 

子供の頃の夏休み。

一杯思い出があります。

でもあんまり楽しいだけの思い出って思い出せないですよ。

「土砂降りの中、びしょびしょになりながらテントを張った遠い記憶。」

「中学生なのに、小学生の料金でバスに乗った友達との小旅行」

「タコに海に引きずり込まれそうになった父の姿。」

皆さんも、遠い夏休みの記憶、想い出してみませんか。

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