温泉のお供にはやっぱりお酒
旅館、真実湯(まことゆ)の湯守(ゆもり)をしとります、ゲンといいます。
よく温泉に入ると肌にいいとか、病気が治った、なんて話を聞きますがね。
真実湯に浸かっていかれたお客さんはどうも変わったことをおっしゃるんですよ。
よく美肌の湯なんて謳い文句の温泉を見かける時代になりましたなぁ。
この美肌っていうのは人間、はたまた生き物に限られたものなんですかね。
私は長年、お湯と向かい合って、入られたお客さんと話し合って、いろんなお風呂の側面っていうものを見てきたんですよ。
温泉とくれば日本酒。
今回は、そんな温泉と日本酒のお話です。
旅行っていうのは非日常的な気分が楽しいもんで、普段やらないことだったり、ここでしかできないことを体験したいと思うものです。
それがその場所にだけ湧く温泉だったり、そこで生産される食べ物だったり、そこにしかない観光地になるわけです。
真実湯(まことゆ)にはやはり温泉を目当てにいらっしゃるかたが多いですが、温泉のあとのお楽しみ、地酒も非常に人気でして。
米どころに位置し、山の清流も流れ込み、日本酒をつくるには最高の立地といっても過言ではないでしょうなぁ。
そんな場所ですから、近所に酒蔵があります。
「志(こころざし)」という地酒をつくってまして、なかなか有名なんだそうですよ。
今回は地酒が好きなお客さんから学んだ、日本酒の真髄をお話ししましょうか。
こだわりの地酒を求めて
その方がいらしたのはちょうど秋も深まって、朝晩がだいぶ涼しくなってきた頃です。
真実湯の夕飯にも秋の味覚がそろい始めて、自然と地酒のストックが増えてきました。
私はあまり地酒を飲むってことはしないんですよ。
だからお客さんに「深みがあるねぇ」とか「澄み切ってますね」なんていわれてもピンと来なくて、ちょっと申し訳ない気持ちになります。
「志」は真実湯がある村の「菱之山酒造」がつくってまして、真実湯と同じ地域で脈々と日本酒用につくっているお米に、すぐ裏手の山から流れる沢の水を使ってるみたいです。
詳しくは…やっぱり知らないんでね、申し訳ないです。
この時期になると地酒を求めていらっしゃるお客さんが増えてきます。
その日も男性のお客さんがチェックインも早々にまちの酒屋に出かけていきました。
「おかえりなさい、お目当てのものありました?」
「いやだなぁ、番頭さん。この時期と言ったらこれでしょう。」
嬉しそうに見せてくれたのは、「志」とラベルに書かれた日本酒でした。
「この時期がうまいって日本酒マニアの友達からおすすめされてね。
最近は通販でいろんな地酒を買えるようになって、取り寄せて飲んでいたんだけど、
その場所を知って飲むと違うかなー、なんて思って泊まりに来たんだよ。」
最近はお酒をただ単に飲むのではなく、地酒がつくられたその場で飲む。
そこに価値を見出しているかたが出てきているようです。ちょっと意外でした。
「なるほど、地酒っていうくらいですからね、まさに「志」のふるさとはここですよ。
この場所が育んだ温泉、山の幸と、合わせて楽しんでいってくださいね。」
「ありがとう、のんびりさせてもらうよ。」
普段家で地酒を注文して飲んでいるかたが、地酒のふるさとで飲む…どんな味の違いを感じるのか。
私は興味津々でした。
その日の夜、食事を済ませたそのお客さんのところにすぐ飛んで行って感想を聞いてみました。
「お客さん、お酒飲まれました?」
「ん?ああ、飲んだよ。」
「どうです?ご自宅で飲むのとは違うんで?」
「…そうだね、やっぱりここでとれたキノコや山菜とはこう…味が合致するっていうかな、おいしかったよ。」
どうも言葉を選んで話されているような感じがして、そこまでの感動はなかったんだなぁというのが伝わってきました。
お酒はお酒ですから。
場所を問わずおいしいんでしょうな、きっと。
新しい気づきを
翌朝、宿に出てきてすぐそのお客さんと会ったんです。
「番頭さん!おはよう!」
「おはようございます。」
昨日の夕飯時とは違った明るい声に振り向くと、とてもにこやかな笑顔がありました。
「おや、どうかされました?すごくさっぱりされた顔ですな!」
「今朝、風呂にはいったあと、昨日飲み残していた「志」を飲んでみたんだよ。
そうしたら一日置いたとは思えない、昨日よりおいしくなっててさ。
これってもしかして、ふるさとの空気に触れて、地酒が本来の姿に戻ったのかなーなんて思ったら、
ここまで来て飲んでよかったなって思えたよ。」
一晩おいておいたお酒は空気に触れて味が落ちるイメージですよね。
にもかかわらず味が上がっている!詳しいかたがおっしゃってますから、本当にそうなのでしょう。
「感触が違ったのは地酒だけじゃないんですよ。
昨日の夜はいった温泉と、今朝の温泉はなんだか感じが違ってね。
地酒を楽しみに来たけど、各地の温泉をめぐるのも楽しいんだろうね。
これから出費がかさむなぁ…わっはっは!」
温泉というと、この場所でしか楽しめない、生み出せないものです。
地酒はいまとなっては家に取り寄せることができますよね。
それでもやはり、生み出すのはこの場所でしかできないことです。
このエリアの水、土壌、さらには気候や稲を刈り取る人、酒造で働く杜氏が生み出しています。
これは地酒に限らず、ふるさとで楽しむことは、きっと新しい気づきがあるんでしょうなぁ。
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こんな素敵なことってありませんか?
この瞬間、本当に極楽気分になるんでしょうね。
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