【小説】真実湯のものがたり~第2湯 入浴剤の記憶~

ある親子のお話

旅館、真実湯(まことゆ)の湯守(ゆもり)をしとります、ゲンといいます。

よく温泉に入ると肌にいいとか、病気が治った、なんて話を聞きますがね。
温泉の本質はそういうことじゃあないんですな。
私は長年、お湯と向かい合って、入られたお客さんと話し合って、いろんなお風呂の側面っていうものを見てきたんですよ。

今回は、初めて真実湯に宿泊してくださったお母さんと娘さんのお話をしましょうか。

それぞれの想いを汲んで

だいぶご高齢のお母さんでね。
玄関のちょっとした段差は娘さんに両手を持ってもらって、体重を預けないと上がれない方でした。
笑顔が素敵なお母さんでね。
顔のしわから、いままでの人生どれだけ充実していて、笑顔に溢れていたか伝わってきましたよ。

お母さんはすこし呆けがあるようで、お母さんの笑顔と対照的に、娘さんにはすこし疲れが見えましたなぁ。
それでも親孝行しようと、旅行に連れ出す気持ちが本当にすばらしいですよ。
真実湯の湯守として、その気持ちに応えられるようなお湯張りをしないとなぁと、シャキッとした気持ちになりました。

お部屋にはいられてから時間がすぎて、夕食の時間。
一般のお客様は広間でお食事されますが、お母さんと娘さんは部屋食でした。
お話しする機会もなく、その日の仕事は終わり、帰ろうかと思っていたところです。
最後に湯船の状態を確認しようと、脱衣場の前でばったりお二人と会ったんです。

びっくりしました、お母さんが泣いていたんです。
声が漏れるくらいでね、娘さんは慌てた様子でした。

思い出の香りを辿って

「なにかありましたかねぇ。」
「大丈夫です。すみません、すみません…」

追いかけて詳しく話を聞いたほうがいいか…。
深入りしないほうがいいのか…。
こういうときは迷うもんですね。
私は声をかけられませんでした。

お母さんの背中と顔を伏せた娘さんを見送ってから、浴室の確認を始めました。
すると据え置きシャンプーの量が妙に減っていることに気がつきました。
特別にお客さんが多いわけでもないのになぁ…不思議に思いながらシャンプーを補充して、湯船の温度を調整して、この日は家に帰りました。

翌朝。
玄関の掃き掃除をしていると、娘さんが話しかけてきました。

「あのー…すみません、こちらのお風呂に置いてあるシャンプーって、販売はしてないんでしょうか」
「宿として販売はしていないんですよ。そうですね…たくさんというわけにはいかないですが、少しでしたら差し上げましょう。気に入っていただけたのなら嬉しいです。」
「そうですか。ありがとうございます。母がとてもこちらのシャンプーに思い入れがあるようでして…」
「思い入れ…ですか。たしか真実湯のご宿泊は初めてとうかがっておりますが…」
「母が若いころに使っていたシャンプーと同じみたいで。母は大家族の家庭で育って、子供のころはみんなでお風呂にはいるのが好きだったみたいなんです。それを思い出したみたいですね。」

あのとき泣いていたのは、懐かしさだったのかなぁ。
私が思った時、なんとなくお母さんの生活環境が想像できちゃったんですね。

「もうご家族や兄弟は亡くなられてるんですかね?」
「そうです。」
「そうですか。あともしかしたら、お母さんは普段施設にはいられてるのでは?」
「そうですね、老人ホームで生活しています。」

私もいいジジイですから、お母さんが涙を流したのが懐かしさだけではないとわかってしまうんです。

「そうでしたか…あ、そうそう、シャンプーですね。とってきますね。詮索するようなことうかがってしまってごめんなさいね。」

シャンプーを取りがてらお母さんの気持ちを察すると、私も目頭が熱くなる思いでした。

当然老いというものは誰しも経験するものですが、それは記憶がなくなっていったり、できることができなくなったり…辛さがともないますなぁ。
お母さんはきっと、亡くなった家族、兄弟のことを忘れてしまっていたのだと。
もちろん私が勝手にですよ。
そう思ったんです。
家族に囲まれて幸せだったことを忘れてしまった自分が不甲斐ない、忘れてしまう老いの恐怖。
そういったものが涙になったんでしょう。

シャンプーを容器に詰めて娘さんに渡しました。

「こちらですね。もしなくなったら連絡してくださいよ。ちょっとだけですけれど、お送りしますからね。」
「いえいえ、悪いですよ。これで十分です。ありがとうございます。」
「なんとなくですが私、お母さんの気持ちがわかるんですよ。老いぼれ同士のプレゼント交換だと思って、贈らせてください。一つお願いしたいのは、お母さんに会いに行く前には、お客さんもこのシャンプーを使ってください。単純にシャンプーのにおいを感じるよりもずっと喜ぶはずですから。」
「申し訳ないですね、ありがとうございます。」

そういうと、娘さんは部屋のほうに歩いて行きました。

以降シャンプーを定期的にお送りするようになって、そのお礼にお手紙をいただいてましてね。
それによると、最近呆けの症状が止まっているみたいで。

人の人生に温泉が、一人の湯守ができることなんて限られていますが、こんなふうになにかきっかけが隠れていることもあるんですよ。
お風呂にはいって一度自分の過去や未来を考え直してみるのも、いい温泉滞在のしかただなぁと思います。

また今日も風呂掃除にお湯張り魂込めてやっていきます。
皆さんも真実湯におこしいただくのを、私は楽しみにお待ちしておりますよ。

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